私たちが古来、こよなく愛してきたカツオが今、危機的な状況になっています。四季折々の食卓に欠かすことができない魚であり、土佐の食文化を支えてきた大切な食材です。しかし、カツオに関わる多くの人たちから「このままでは日本近海からカツオがいなくなる」「食卓からカツオが消えてしまう」と悲鳴に近い声が上がっています。
先人たちが受け継いできた「土佐の一本釣り」は、カツオ資源を枯渇させない優れた伝統漁法だと自負しています。ただ、日本近海あるいは沿岸で一本釣りに携わる土佐の漁師たちは、もう20年も前から「カツオが減っている」と訴え続けてきました。黒潮とともに太平洋を北上してくるカツオが土佐沖でも房総沖、三陸沖でも目に見えて減少。沿岸の一本釣りは近年、漁場がなくなりつつあるほど深刻な不漁が続いています。
カツオが生まれ育つのは遥か太平洋の熱帯域です。この海域では、世界的な水産需要の高まりを背景にアジア船籍の大型巻き網船が年を追って増加し、漁獲量も増大してきました。日本の大手水産会社も含め、大型船が巻き網を使って幼魚、成魚の区別なく魚群ごと一網打尽にする漁が続けられています。カツオに関しては、関係各国による資源管理の論議は起こらず、漁獲規制もありません。歯止めのない「乱獲」が、日本近海への回遊の減少を招いている、私たちはそう見ています。
今、行動を起こさなければ、取り返しがつかなくなります。子供や孫たち、将来の世代に顔向けできません。日本近海にカツオを呼び戻し、黒潮の遺産を次世代へ引き継ぐために私たちは高知カツオ県民会議を立ち上げました。カツオを通して県民と共に「食」の在り方を考えることが、水産資源を持続的に利用していく機運につながるはずです。海外では、乱獲による資源枯渇に危機感を持つ国民世論が大きな力となり、持続可能な漁業に移行した事例が少なくありません。
カツオ資源の保全には、太平洋熱帯域での漁獲規制が欠かせません。関係各国との漁業交渉という困難な壁を乗り越えるために、私たちの危機感を高知から全国へ、さらに海外へ、カツオを愛するすべての人たちと共有し、行政や政治を動かす世論喚起を目指します。
カツオの危機は単に食材の一つが食卓から消えることにとどまらず、和食の基本であるカツオだしにも波及します。カツオを「県魚」とする高知では独自の魚食文化を育み、加工、流通にも関連産業が根付いています。来県する客人たちの「おもてなし」にも欠かせません。だからこそ、高知から声を上げ、皆さんと共に取り組んでいこうと考えています。